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滝沢カレン節のレシピ本『カレンの台所』はちゃんと使えるの? 話題の“鶏の唐揚げ”を作ってみた(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース

 分量の記載、いっさいなし。日本語のルールにも縛られない、自由すぎるレシピ本が誕生した。その名も『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)。タレント・モデルとして広く活躍し、大の料理好きとしても知られる滝沢カレンが4月7日に上梓した初のレシピ集となる。

【写真】実際にできた「鶏の唐揚げ」

■「カレン節」の楽しさと、おいしく作れる実用性の高さ

 ここで、「ああ、タレントの本か」と素通りするのはもったいない。

 本来レシピといえば箇条書きが主流で、「砂糖大さじ1杯」や「水100ml」などの数字がつきもの。だが、ここは分量も段取りもコツもすべて「カレン節」によって語られる新世界。キッチンでおなじみの食材がひとたび滝沢に命を吹き込まれると、まるでおとぎ話のキャラクターのようにウキウキ、いきいきと動き出し、メルヘンチックにおいしい料理へと昇華する様子が描かれるのみ。この新しい読書体験によって、初心者から手慣れた人まで心くすぐられる料理の楽しさを得られるに違いない。例を挙げてみよう。

・サバが泡風呂に沈まりかえり、気持ちよさそうに味噌もブツブツとサバと話していたら(サバの味噌煮)
・どの葉がいちばん男として強いかを、見定めていきます(ロールキャベツ)
・テカテカパックで帰り道が恥ずかしくなるほど潤いに満ちた手羽元がいたら大成功(鶏のさっぱり煮)

 サバが風呂に入り、キャベツがたくましい男に? 手羽元にいたるや、いきなりエステから帰ってくる。コラーゲンの塊が美容好きとは、突拍子もない話だなあ!と爆笑しつつ、レシピの通りに調理を進める。

 例えば、「味噌のブツブツ」は強火だとそうは聞こえないだろうから、私の手はおのずと火加減を調整することになる。ロールキャベツに使う葉は、より厚みがあって大きいものを選ぼうとする。つややかに照りが出て美しくなった手羽元を見て、料理の終わりとご馳走タイムの始まりに顔がほころぶ。こうして調理の段取りやコツをしっかり掴める流れの良さは、日々インスタグラムで料理を公開している滝沢の腕前と、表現力の高さの賜物だろう。

 ふと、この滝沢の独特な言い回しセンスに、懐かしさも覚えた。かつて、東海林さだおが放った「チクワは疲れている(『昼めしの丸かじり』/文春文庫)」「アサリの悩みを聞く(『ケーキの丸かじり』/文春文庫)」などの名調子を思い出させるのだ。両者に通じるのは、時にクスッと笑いを誘い、ショートな言葉さばきで食べものへの想像力をかき立ててくれる感性の鋭さだろう。私はずっと、ネオ東海林さだおといえる書き手を待っていた。そんなところでふと出会った、食いしんぼうの滝沢カレン。彼女のことがすっかり大好きになった。

■『カレンの台所』の「鶏の唐揚げ」が人生レシピに

 本書で最初に掲載されているのは、インスタグラムでも話題をかっさらった鶏の唐揚げだ。さっそく作ってみることにし、レシピを読む。

・やれやれとボッタリくつろぐ鶏肉(鶏の唐揚げ)
・お醤油を全員に気づかれるぐらいの量(鶏の唐揚げ)

 カレン語で綴られる物語がボリューム全開で脳内にこだまし、神経を伝わり、キッチンに立つ私の手を動かしていく。大さじ、小さじを使い、デジタルスケールで数字とにらめっこしていた頃が、江戸時代ぐらい遠くに感じる。

 唐揚げにつきものの生姜とにんにくを、

・鶏肉ひとつにアクセサリーをつけるぐらいの気持ちで(鶏の唐揚げ)

 ちょんちょんと加えるくだりに指がワクワクする。

・自分が二の腕気にして触ってるぐらいの力で(鶏の唐揚げ)

 お肉に調味料を揉み込んでいく。ハハハ、二の腕。薄着になる前になんとかしないとね、なんて夏に思いを馳せながら、料理が進む。滝沢式唐揚げの最大のポイント、二度揚げのシーンでは、高温の油で大はしゃぎするお肉たちがユーモラスに描かれる。

・だんだんとキャピキャピ音が高くなってきたら、ほんとに出してくれの合図です。

 揚げ物に慣れた者だけが知り得るあのサウンドを、ここまで的確に表現した書が他にあるだろうか?

 かくして出来上がったのは、二度揚げ効果で衣ザクザク、頬張るたびに溢れる肉汁に歯と舌が喜び、つられて私も笑ってしまうほどの絶品唐揚げだった。あの時、かわいい子を愛でるような気持ちでちょんちょんとつけたにんにくと生姜もしっかり効いている。自分が知り得る唐揚げレシピとしては過去最高傑作をマーク。ついに人生レシピを手にした喜びに、心の中でガッツポーズをキメてしまった。

 この他にも本書は、スタンダードなレシピを約30品掲載。ラザニア、肉じゃが、鶏のさっぱり煮など、どれも胃袋がアンコールするレベルにおいしかったから、もっともっと読みたい気持ちにさせられる。が、滝沢風にいえば「本には終わりがあっちゃいます」。仕方ない。アーノルド・シュワルツェネッガーの大ファンという彼女が「I'll be back」と続編を約束してくれることを、首を長くして待つことにしよう。その日が来るまで、キャピキャピの唐揚げさんたちと何度でも友だちになりながら。

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April 25, 2020 at 11:45AM
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