文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:
お肉を食べるって、イメージ的に明るくて、前向きで、エネルギッシュで、ワイルドで、とことんポジティブなものだと思ってました。仲良しで集まって大きな塊肉をわいわい切り分けて食べる、心と体のエネルギー回復のために炭火でジュウジュウ焼く、クリスマスに丸ごとのチキンをド~ンと焼いてパーティする、厳しいワークアウトの後にニヒルにささみバーを
でも、この本に出てくるのは、非リアなお肉ばかり。食べる人たちはみんな、疲れていたり、行き詰まっていたり、
でも、なんだか、とても
物語はゆるく
小学生から40代までの、様々な年代、境遇の男性たちが現状をぼやきながら、なんとなく口にする鶏肉。でも、そのなんとなくが、ちゃんと心のエネルギー源になっていく。疲れていても、行き詰まっていても、鬱屈していても、前に進まざるを得ない。日常を少しずつ良い方に向かわせるために。そういう時に人が口にするのは、特別な牛肉でも、ガツンとした豚肉でもなくて、安くて食べやすい、日常的な鶏肉なのかも。
「丸ごとコンビニエント」ならタカナくんの空っぽさに、「羽のある肉」なら
肯定するわけでも否定するわけでもない。誰もがきっと持っている普通の感情が、普通の生活の中で
それに、鶏肉は実は
当たり前だけど、実は凄い。一番身近にいて、なんてことなくて、でもいざという時に頼りになる、鶏肉みたいな人って、実は素敵じゃないですか?
で。
実は。
ここまで書いてきて、ものすごく今さらなのですが……わたし、この世で最も苦手な食べ物の一つが、鶏皮なのです。ぷよぷよした食感が苦手。密集ものに弱いので、あの見た目も駄目。鶏肌見て鳥肌立っちゃう。
このままでは駄目だ、とある日一念発起して、食べられる鶏皮を探しました。そして見つけたのが、カウンターのみ、定員数名の小さな焼き鳥屋さん。ここ、予約はほぼ無理、常連さんが顔パスで入るようなお店。なので、
一計を案じました。
できるだけ空いてそうな時間帯を見計らい、のれんを潜り、ニコッと笑って「ご
「おう、
と。作戦成功!!(倫理的には問題ありですが)「じゃあお任せで~。あ、でも鶏皮入れてね」とこれまた常連っぽい感じで。
念願の鶏皮は、カリカリムチムチ。今までわたしが苦手としていた鶏皮の嫌なところが、そのまま全て長所になってる……ナニコレ? 鶏皮に鳥肌を立てながら夢中でもぐもぐしていると、大将とお客さんの会話が。
「うちはブロイラーだよ、そこらへんの。大事なのは焼き方!!」
ほえええ、そうなんだ。良い材料使えばそのまま
ということで残念ながら、大将の神業によって焼き上げられた鶏皮以外はその後も苦手なまま。相変わらずのスキンレスチキンを齧りながら、世の中にはわたしの食べられる鶏皮もあったことを思い出しています。それってちょっとだけ、勇気づけられて、希望があって、わくわくしません?
▼坂木司『鶏小説集』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
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August 05, 2020 at 10:02AM
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