トランプ前大統領の機密文書持ち出し、フロリダ連邦地裁が起訴を棄却

米司法省が昨年6月に公開した起訴状には、トランプ邸のシャワー室や広間に積み上げられた機密書類の箱の写真が掲載されていた

画像提供, US Department of Justice

ドナルド・トランプ前米大統領が退任後にホワイトハウスから機密文書を持ち出し違法に所持していたとされる事件で、フロリダ州の連邦地裁は15日、起訴棄却を決定した。

アイリーン・キャノン判事は前大統領側の主張を受け入れ、事件を捜査したジャック・スミス特別検察官を司法省が任命したことそのものが違憲のため、起訴は無効だと判断した。

キャノン判事は、「この法廷は、スミス特別検察官がこの行為を起訴したことは、この国の憲法の二つの構造的な礎石を逸脱するものだと確信している。つまり、憲法上の公職者の任命における連邦議会の役割と、法にもとづく支出の承認における連邦議会の役割のことだ」として、司法省によるスミス特別検察官の任命と、与えられた予算措置のいずれも議会が承認していないことから、違憲だと判断した。

スミス特別検察官の報道官は、司法省が上訴する方針を承認したと明らかにした。

「本件の棄却は、司法長官は特別検察官を任命する法的権限があると過去にすべての裁判所が一様に結論してきたことから、逸脱するものだ」と報道官は述べた。

スミス特別検察官は、訴えの棄却を上訴するだけでなく、この事件に関して別の連邦地裁判事の任命を求めることもできる。

トランプ前大統領はこの棄却決定を受けて15日、自分のソーシャルメディアで、「これはただの第一歩になるべきだ。これに続いて、すべての魔女狩りをただちに棄却するべきだ」、「この国の司法制度を武器として使うのをいっさいやめさせ、アメリカをまた偉大にするためにみんなで団結しよう」と書いた。

この事件で司法省は、トランプ前大統領がフロリダ州の自宅兼リゾート施設「マール・ア・ラーゴ」の倉庫やシャワー室などに多数の公文書を置いていたとし、さらに捜査員にうそをつき、捜査を妨害したとして、前大統領を起訴した。

前大統領は、国防情報を含む機密情報の意図的な所持など、公文書の扱いをめぐる複数の重罪の罪状について、いずれも無罪を主張していた。

キャノン判事は、自分の判断はフロリダ州での公文書保持事件にのみ限定されるもので、2020年大統領選に関する事件には適用されないと明示した。前大統領の弁護団は、後者の事件については棄却を求めていない。

議会承認を経ない特別検察官の任命そのものが違憲だとしたキャノン判事の今回の決定は、過去に複数の特別検察官による起訴事案を取り上げてきた、他の国内裁判所による多くの判例と、真っ向から対立することになる。

「マール・ア・ラーゴ」の大広間に積み上げられた機密文書の箱

画像提供, US Department of Justice

法的な論争

キャノン判事の意見は、一部の保守派法曹関係者が主張する法律理論からくるもので、最近では連邦最高裁が大統領の免責特権を公務について認めた判決の中で、クラレンス・トマス判事が主張した。

キャノン判事は今回の決定の中で、特別判事任命の法的根拠を問いただすトマス最高裁判事の意見を3回にわたり引用している。

元連邦検察官のニアマ・ラフマニ氏はBBCに対して、キャノン判事の決定は「控え目に言っても、驚愕(きょうがく)に値するもの」だと話した。

キャノン判事は自分の決定は公文書の扱いをめぐる事件に限定されると述べているものの、特別検察官による他の事件にも疑いを生させると、ラフマニ氏は話した。

特別検察官が扱った事件には、ジョー・バイデン大統領の息子ハンター氏が銃の購入・所持をめぐり有罪となった事件も含まれる。

ただし、ハンター氏の事件を扱ったデイヴィッド・ワイス特別検察官は、2017年に当時のトランプ大統領によってデラウェア州の連邦検察官に指名され、上院に承認された後、連邦検察官のまま2023年にガーランド司法長官によって特別検察官に任命されている。これに対してスミス氏は、2022年11月にガーランド長官によって特別検察官に任命される直前まで、ハーグに設置されたコソヴォ特別法廷の主任検察官だった。

多くの専門家は、キャノン判事の今回の決定は二審で覆される可能性が高いと指摘するものの、この公文書事件の審理が長引くことは、11月5日の大統領選に向けてトランプ陣営の有利に働くとみている。

「この決定は最高裁や他の下級裁の判例と矛盾するため、控訴審で認められる可能性はまったくないが、選挙の前にこれ以上の恥ずかしい事実が明らかになるのを防ぐという効果はある」と、米ジョージタウン大学法律センターのデイヴィッド・スーパー教授は話した。

多くの共和党議員は、キャノン判事の今回の決定を歓迎した。他方、民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務は、「息をのむほど誤った判断」だと批判した。

トランプ前大統領は今年5月、不倫関係にあったとされる女性に対する口止め料支払いについて事業記録を改ざんした罪34件でニューヨークの州地裁で有罪となった。量刑の言い渡しは9月に予定されている。

ほかに、2020年大統領選の結果を覆したとされる事件で、国民に対する詐欺を共謀した罪など連邦法違反4件で起訴されている。また、同様に2020年大統領選でジョージア州において結果を覆そうと共謀した州法違反の罪で起訴されている。